よく「私は多汗症です。岩盤浴で汗をかくともっとひどくなりませんか?」という質問を受けます。
実際、岩盤浴ではたくさんの汗をかきます。実は、その岩盤浴で多汗症が改善するのです。「話が矛盾していない?」と思われるかも知れませんね。
しかし、岩盤浴で汗をかくことと多汗が減少することは、汗の生理学的には全く矛盾してはいません。
正確にいうと、岩盤浴では「全身の汗腺」を有効に活用してたくさんの汗をかくので、その結果として「部分汗」、つまり顔や上半身などの特定の一部から発汗するような汗の偏りが治まったと考えるのです。
人間の汗腺は、全身に400~500万もあるといわれています。しかし、私たちはその全てをフルに使っているわけではありません。実際に「汗をかいて働いている」汗腺(能動汗腺)は、およそ半分くらいなのです。残りの半分は、いわば休眠しているのですね。ただ眠っているのではなく、「待機している」といったほうが正確でしょう。
「岩盤浴でかく汗はなぜ臭くないのか?」
この質問の答えは、岩盤浴の汗が「サラサラ汗」になる理由がわかれば明自です。サラサラ汗には、血漿のニオイ成分が含まれていないからです。
もともと汗には血漿の成分が微量に含まれていますが、その主体はナトリウム、カリウムなどのミネラルです。同時に、もっと微量ですが血漿に含まれる尿素やアンモニア、乳酸といったニオイ成分も含まれています。また、ニオイを作る雑菌の繁殖環境を提供するアルカリ性の重炭酸イオンもあります。
岩盤浴でかく汗は、水に近い薄い汗です。つまり、血漿のミネラル類やニオイ成分が少ない汗ということです。当然、臭くありません。
汗がかけないことの大変さが、ここでおわかりいただけたでしょうか?
岩盤浴は、汗をかけなくなった現代人にとって、よい汗をかける身体をつくるための救世主として登場してきました。岩盤浴は時代の要請でもあったのです。
では、岩盤浴でなぜ「サラサラ汗」がかけるのでしょうか?
その秘密は、人間が汗をかく仕組みに隠されています。
汗は、身体の温度受容器つまり「温度センサー」が体温の変化を感じ取るところから始まります。
この「温度センサー」は皮膚と脳(深部)とにあります。皮膚のセンサーは主に外気温を感じ取り、脳のセンサーは身体の深い部分の温度を感じ取ります。つまり、外気や皮膚表面の急激な温度の変化は、迅速に対応できる皮膚の温度センサーで反応し、身体の恒常性を保つのに必要な深部温の変化には、脳の温度センサーが受け持って安定的に汗をかくという役割分担があるのです。
この温度受容器のどちらのセンサーが主に発汗指令を受け持つかが、「サラサラ汗」になるか「ベトペト汗」になるかの分かれ道なのです。
そこに岩盤浴でいい汗をかく意味があるのです。
既に説明した通り、岩盤浴の遠赤外線の温熱作用は、身体の芯まで浸透して体をまんべんなく温めます。特に内臓や筋肉を温めて、その働きを高めてくれるのです。
よく「頭寒足熱」といって、脳は冷やして足は温めるのが身体によいといわれますが、これは「頭寒内臓熱」でもあるのです。胃腸や肝臓といった内臓は、人間の平熱である37℃よりもやや高めのほうが働きやすいのです。人間が恒温動物として37℃を平熱としたのは、脳の細胞にとって37℃が適温だったからです。つまり、内臓器官は脳の適温を優先するために、自分たちにとって適温である高めの体温を犠牲にしているのです。
だから岩盤浴で内臓を温めてやると、内臓器官は大喜びで働きます。特にエネルギー代謝を司る肝臓の酵素は活性化され、代謝力が高まります。エネルギーが十分できるのですから当然血液の流れも改善され、組織の隅々まで十分な酸素を送ることでますます新陳代謝が盛んになり、各組織の細胞が生き返るのです。
このように身体の代謝というのは、放っておいたら一定に保たれるというものではなく、代謝が良くなればさらに良くなるという好循環に、悪くなればさらに悪くなるという悪循環に陥りやすいのです。私はこれを「代謝循環」と呼んでいます。この代謝循環を改善したり、悪化させたりするカギを汗が握っているのです。
汗をかけないと前述のようにさまざまな病気が連鎖的に生じます。私はこれを「汗のチェーン現象」と呼んでいます。
これらの連鎖反応の引き金になるのが、汗をかかないと「代謝力」が落ちることです。
人間の汗腺は、ちょうど自動車の冷却装置と同じです。自動車が高速で走行しているとき、仮に冷却装置が壊れたらどうなるでしょうか? そのまま走り続けたら、エンジンがオーバーヒートしますね。しかたなくエンジンを切らざるを得ません。
人間の場合、汗腺が機能低下してうまく汗をかけないことは、この冷却装置が壊れたことと同じです。しかし、人間は自動車のようにエンジンを切る(心臓を止める)わけにはいきません。
そこでどうしたらよいか?
このような自律神経の乱れは、慢性化すると自律神軽のおおもとの脳まで影響がおよびます。
例えば脳の大脳皮質は、私たちの感情に関わる大事なところなのですが、そこが乱れて感情的に落ち込んだりイライラしたり、情緒不安定になり、ひどいときには引きこもりや出社拒否になってしまいます。ただの夏パテだったのが、秋風の立つ頃には家族とも口をきかなくなり、自宅でボーつとする日が多くなり、眠れない夜が続く。神経内科を受診すると「軽いうつ状態ですね」と診断されたりする。このように汗腺の疲れは、夏バテから秋バテ、さらに影へとつながっていくのです。体温調節がうまくいかないと、甲状腺のホルモン分泌が低下することもあります。頭がぼうっとして覇気がなくなり、仕事や勉強の意欲も低下して会社や学校に行くのがおっくうになり、出社拒否や引きこもりにつながりやすいのです。
さらに体温調節の不具合は、脳細胞そのものにも深刻なダメージを与えてしまいます。
体温の調節ができないと、さらに深刻な病気につながります。
その筆頭が冷房病であり、ここ数年うなぎのぼりに増えている熱中症です。
冷房病の原因は大きく分けて二つあります。
一つは、冷えによって血のめぐりが悪くなることです。皮膚の血管が収縮してしまうのです。もう一つの原因は、外気との温度差が大きくなって自律神経が正常に働かなくなるためです。
人間は、汗腺を発達させることで暑さに適応してきました。このことは、人間が進化するうえでとても大事な部分です。人間は他の動物と比べると、暑さには比較的強くて、寒さには弱い生き物です。その意味では、夏の冷えすぎは不自然で過酷な環境なのです。
日本は四季折々の変化に恵まれた国ですが、そのぶん温度の変化も大きいともいえます。そこで、冬に基礎代謝を高め、逆に夏は代謝を抑え目にすることで季節の変化に身体を慣らしてきました。つまり、冬は寒さへの感覚を高めて血管を収縮させて汗を抑え、夏は逆に暑さへの感覚を高めることで血管を拡張して汗腺を積極的に働かせるといった工夫をしてきたのです。
ところが、夏の冷房が効きすぎる「冷房夏」になると、皮膚は冬と勘違いして、低温に対して過剰に反応するようになります。ちょっとした寒さの刺激でも、皮膚の血管が必要以上に縮こまってしまうのです。猛暑の中を仕事で歩き回ってきた人が、冷房の効いたオフィスに戻ると途端に、皮膚が冷たい気温に反応して全身の血管を異常に縮めてしまいます。それが寒さの感覚となって更に皮膚の血管を収縮させる悪循環になるのです。
冷房病の内容は、喉がいがらっぽくなる、軽い咳や鼻水といった風邪に似た症状か、あるいは慢性的にだるい、疲れやすいといった自律神経失調症の二つがあります。風邪の症状の原因は、身体が冷えて汗腺の機能が低下すると、汗の中にある免疫グロブリン(IgA)の分泌が低下して、風邪ウィルスヘの抵抗力が弱くなることも一因です。
こうした「冷えすぎ症候群」は、さらに二次障害として脳出血や心筋梗塞といった深刻な血管性の疾患にもつながります。特に、血圧の高い人や心臓疾患のある人は要注意です。寒さに過剰反応して血管が収縮すれば、それだけ血圧が高くなって脳出血を起こしやすくなります。しかも、汗をかいて身体の水分が失われると血液が濃くなって血栓もできやすくなり、それが心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。内臓の中でいちばん冷えに弱いのは腎臓なので、冷えが原因の尿路結石ということもあります。身体が冷えることで血のめぐりが悪くなり、細胞の活性も低下する。これが腎臓の働きを弱めて尿の出を悪くし、尿が濃くなって尿
路結石も出やすくなります。
街が変わり、日本人の身体にも、大きな変化が起きています。
日本人の汗腺は、実際に働く汗腺の数が少ないために、暑さについていくのがもともと苦手です。その上、近年の冷房の普及で、「ちゃんと」汗をかく場が減ってしまいました。
夏の日に、外を歩きだせば「暑いなあ」と感じます。汗腺が汗をかく準備を始めると、じきに冷房のある電車やビルに入ってしまう。夜になって帰宅すれば、シャワーを浴びてあとは朝まで冷房をつけっぱなし、という具合です。
これでは汗腺の出番がありません。ちゃんと汗をかいて働く汗腺(能動汗腺)の数は、若い人ほど減っています。逆に増えたのが「変温人間」です。気温と一緒に体温まで上がってしまう人たちのことです。
ここ数年、夏のたびに「熱中症」が劇的に増えていますね。救急車の出勤も珍しくありません。熱中症は、特に小学生くらいの子どもに多い現象です。教室で小学生の体温が、ぐんぐん上がって38℃を越えてしまいます。慌てて冷房の効いた保健室に連れて行って寝かせておくと、高熱が不思議なはどすっと引いてしまうのです。つまり体温が、カエルやヘビのように周囲の温度につれて上下しているのです。
汗腺が進化してきた道筋を、もう少し見てみましょう。
原始人の汗腺は、フェロモンのようなニオイを出して異性を惹きつけるアポクリン腺でした。アポクリン腺も暑くなれば、多少の分泌液を出すので体温を下げてくれる働きはありました。ところが、アポクリン腺には、いったん分泌液を出してしまうと、また分泌液が溜まるまで時間がかかるという欠点があったのです。これでは持続的な体温調節はできません。
そこで、体内の別の所からいつでも汗を調達できるように、原始汗腺は汗の原料となる水分を血液に求めました。これがエクリン腺の誕生です。エクリン腺から出る汗の原料は、実は血液です。しかし暑くなるたびに真っ赤な血を流すのでは生きていけません。
そこで汗腺は、一旦取り込んだ成分を元の血管に返し、ほとんど水となった汗を出すことで血漿成分を守っているのです。これが汗腺の再吸収という大切な仕組みです。汗腺の働き具合はこの「再吸収力」で決まります。よく働いて再吸収する汗腺からは、水に近いサラサラとしたよい汗をかけるのです。
私たちの身体は、心臓や肺や腎臓といったさまざまな器官で作られています。
ご飯を食べれば胃が消化してくれます。走ったときは心臓が力強く鼓勤し、深呼吸をすれば肺が膨らみます。私たちはこうした器官を、いわば身のうちとして大事にしています。
ところが、夏の暑い盛りに大量の汗をかいたとき、あなたは汗腺のありがたさを感じるでしょうか? むしろ逆でしょう。
「こんな汗だくで不愉快だ」
「汗のおかげで臭くなる。こんな汗腺がなければもっと快適だろうに」
と汗腺を疎ましく思うことのはうが多いでしょう。まして感謝などとんでもない……と。
しかしです。